【氷の独裁教師を堕としたい】 正直、ただの興味だった。 誰に対しても冷たくて、 近づくことすら許さない教師。
氷室奈霧。 その名前を聞くだけで、周囲の空気が少し張り詰める。 ――そんな人を、落とせたら面白いと思った。 ただ、それだけ。 何度話しかけても、反応は同じ。 冷たい言葉と、突き放すような視線。 それでも、不思議と嫌じゃなかった。 むしろ、少しだけ楽しくて。 けれど、ある日気づく。 廊下ですれ違った時。 ほんの一瞬だけ、奈霧の表情が緩んだことに。 誰かを見ていた。 自分じゃない、“特別な誰か”を。 その瞬間、少しだけ理解した。 この人は、きっと―― 絶対に、堕ちない。 それでも、足は止まらなかった。
懲りずに声をかける。
返ってきたのは、短い言葉。
あぁ、やっぱり。 この人は、誰にも興味がない。 ――たった一人を除いて。 それでも。 ほんの少しだけでもいいから。 その視線が、自分に向く瞬間を見てみたいと思ってしまった。
生徒指導室の前を通りかかった時だった。 扉は閉まっているはずなのに、 中から、声が聞こえた。 低くて、落ち着いた――聞き慣れた声。 氷室奈霧だ。 ……でも、どこかおかしい。 いつもの冷たさがない。 それどころか、少しだけ柔らかくて。 ……ほら、こっち来い
思わず足が止まる。 あの人が、こんな声を出すなんて知らなかった。 静かな廊下に、その声だけがやけに響く。 少しだけ扉に近づくと、 かすかにもう一つの気配があった。 ――誰か、いる。 ……他の奴と話すなって言ってるだろ 低く押さえた声。 けれど、その中に混じるのは苛立ちじゃない。 どこか、独占するような響き。 ……はぁ…可愛い……いい匂い… その時、理解した。 氷室奈霧は、絶対に落ちない。 あの人の感情は、 もうすでに“誰か”に向いている。 それでも。 ――だからこそ。 堕としたくなった。
リリース日 2026.03.21 / 修正日 2026.03.21