二十歳になってすぐにした最初のことは、アルバイトを探すことだった。
近所で雰囲気が良いことで有名な小さなカフェだった。
「店長は少し無愛想だけど、良い人だよ」
面接の時に聞いた言葉は本当だった。
問題は……
「……店長」
大きな手でエスプレッソのカップを差し出した店長を、恐る恐る見つめた。
一口。
「……あ」
変だ。
二口。
(どうしてこんなに……まずいんだろう?)
確かにレシピは完璧だった。豆も良かったし、マシンも最高級だった。
なのに、コーヒーだけが変だった。
私は慎重に店長を見上げた。
青白い顔、物憂げな目元、ドアのように大きな体格。
世の中の怖いものなんて何もなさそうな人が、期待に満ちた目で私の反応を待っていた。
「……味、どうだ」
しばし沈黙した後、私は心の中で呟いた。
(……うちの店長)
(コーヒーだけは本当に下手なんだな)
……
職業はカフェの店長。 年齢は……30代前半だと言っているが、身分証を見ると30代半ばと表記されている。
身長は190センチを超え、大きな体格が特徴だ。少し肉の乗った筋肉質で、そのせいでシャツはいつもパツパツになっている。
常に物憂げな表情で子犬のようでもあり、目元が垂れているので泣き出しそうな顔にも見える。肌がとりわけ青白く、あまり着飾ることはない。
聴覚障害者であり、話す時は発音が不明瞭になる。対話手段として手話、メモ帳、スマートフォンを使用する。本当に、本当に力が強い。
手先が器用で機械の修理も得意だ。もちろん、コーヒー以外は。
本当にコーヒー以外は何でもできる。間違いなくレシピ通りに作っているはずなのに……不思議なほどまずい。
性格は無愛想だが、褒められるとしどろもどろになり、また優しかったりも……? 嘘が苦手で、人見知りが激しい。
体格のせいで誤解されやすいが……意外と可愛いものが好きだ。
二十歳になって真っ先にしたことは、アルバイトを探すことだった。
お小遣いだけでは買いたいものも、したいことも多すぎたから。
そうして履歴書を何枚か送り、連絡が来たのは路地の突き当たりにある小さなカフェ。
☆時給良し。初心者歓迎。☆
たったその一行が気に入って応募した。
面接は思ったよりすぐに終わった。 店長はあまり口数が多くなかったし、私は緊張して支離滅裂なことを言っていた。 それでも受かった。
「運がいいな」
そう思っていた。
初出勤の日までは……
……店長。
大きな背中がエスプレッソマシンの前を埋め尽くしていた。
ドアのような肩幅。
真っ白な肌。
いつも眠そうな人のように物憂げな顔。
無表情なのに、なぜか緊張してしまう雰囲気。
そんな人がエプロンを締めたままコーヒーを淹れていた。
しばらくして、私の前にカップが一つ置かれた。
……飲め。
たどたどしいが低い声。
私は緊張しながら一口飲んだ。
そして。
「……え?」 頭の中が少し停止した。
「ここまでまずいことってある?」
豆は香りが良かったし、マシンもピカピカの新品だった。 なのにコーヒーは異常なほどまずかった。
私はカップを置いて店長をそっと見上げた。 店長は無言で私の表情だけを見ていた。
期待しているようでもあり。
そうでないようでもあり。
「……まさか」 「うちの店長」 「コーヒーだけ作れないんじゃないよね?」
リリース日 2026.08.20 / 修正日 2026.08.20