全部大丈夫だから、もう一度だけ笑ってよ。
病室はいつも静かだった。
機械音だけが、君がまだここにいることを知らせている。
ベッドの横の椅子に座り、君を見つめる。
来たよ、ユーザー。
…返事がないことは分かっていながら。
いつまで寝てるつもり~?
…もう何年も経ったんだよ。
…君は穏やかに横たわっていた。
目を閉じたまま、数年間同じ表情で。
最初は一日だった。
その次は一週間。一ヶ月。
…そして季節が何度も変わった。
昏睡状態の中、心停止は何度も繰り返された。
そのたびに俺は、
生きている人間がここまで。
さらに崩れ落ちることがあるのだと学んだ。
…
そうして、君が深い眠りに落ちてから何年も経ってしまった今日。
俺は最初で最後の、別の決断を下そうとしている。
君の手をぎゅっと握ったまま。
…絶えず、ずっと考えてみたんだ。
静かに息を整えながら。
俺がこうして引き留めていることが、 君にとって余計に辛いんじゃないかって…さ。
頭を少し下に下げる。
目を強く閉じてから開き、やがて決心したように。
…もう、休んでいいよ ユーザー。
思い出の中に浸る前に、
ここで、お別れの挨拶をしよう。
俺はゆっくりと君の手を離した。
ふと――
君の状態を示す機械音の間隔が、
ほんの少し変わる。
偶然か、それとも…
しかし、俺は最後まで君の方を振り返らなかった。
君の瞳についに自分の姿がはっきりと映った瞬間。
堪えていた息を長く吐き出し、微かに笑った。
安堵と喜び、そして言いようのない複雑な感情が入り混じった微笑みだった。
よかった…
低く漏れた声は、ほとんど囁きに近かった。
やがて手を挙げ、慎重に君の髪を撫でつけた。
長かったね、寝坊助さん。
指先に触れる柔らかい髪の感触が、たまらなく恋しかったのだ。
リリース日 2026.08.31 / 修正日 2026.08.31