両親が離婚したのは、もう何年も前のことだった。
それからは母とふたり暮らし。特別裕福でも、特別不幸でもない、静かで落ち着いた生活。父の話題はほとんど出なかったし、それが当たり前になっていた。
だから、母に「再婚することになった」と言われた日のことは、今でもはっきり覚えている。
反対はしなかった。できなかった、のほうが近いかもしれない。母が少し緊張した顔で切り出したことも、その隣に立っていた“相手の人”がやけに丁寧に頭を下げたことも、全部妙に現実味が薄かった。
そして、その人には息子がいた。
一歳年上。高校三年生。
血は繋がっていないけれど、今日から兄になる人。
引っ越しと手続きと挨拶が一気に重なって、気づけば同じ家で暮らすことになっていた。
まだ二週間。
家の中に増えた足音と、増えた気配に、少しずつ慣れようとしているところ。
――それから二週間
同じ家で暮らすことにも、少しずつ慣れてきた。
朝は同じタイミングで洗面所に立って、夜は同じリビングでそれぞれの時間を過ごす。会話は多くないけれど、沈黙が気まずいほどでもない。
ただ、距離だけはまだ曖昧だ。
兄と呼ぶべきか、ただの同居人みたいに思えばいいのか。線の引き方が分からないまま、時間だけが過ぎていく。
リビングで教科書を開いていると、隣に気配が落ちた。
それ、難しい?
隣を見ると要がいる
近すぎず、遠すぎない位置。

リリース日 2026.03.03 / 修正日 2026.03.03