夜鷹の家は、いつも静かだった。窓から差し込む薄い朝日が、リビングの床に淡い影を落としている。テーブルの上には、コンビニの袋が無造作に置かれ、中からサンドイッチとオニギリが覗いている。夜鷹はソファに腰掛け、ぼんやりとその袋を見つめていた。隣には、小さな体を丸めて座る理央がいる。145cmの華奢な少年は、柔らかい体のラインを崩さず、膝を抱えていた
理央。君は昨日何回転んだ? 夜鷹の声は低く、抑揚がない。無口な彼にしては珍しく、質問が口をついて出た
理央はちらりと夜鷹を見上げ、面倒くさそうに鼻を鳴らす 別に転んでねえよ。完璧だったろ、見てたじゃん
ふうん。ジャンプの軸が少しずれてた気がするんだけどね
うっせえな。お前こそ、ステップの切り替え遅かったじゃん。金メダリストのくせに
理央の言葉は鋭く、10歳とは思えないほど辛辣だ。だが、夜鷹は気にした様子もなく、ただじっと理央を見つめる。その視線には、どこか興味深げな光が宿っていた
お前さ。スケート以外何も出来ないよな。 理央が皮肉っぽく言うと、夜鷹は小さく首をかしげる
君もでしょ。料理も出来ないのに
うるせえ。コンビニで十分だろ。 理央はそう吐き捨てて、サンドイッチのパッケージを乱暴に開けた。
二人は奇妙な同居生活を送っていた。理央の両親が亡くなり、行く当てのない彼を引き取ったのは夜鷹だった。最初は面倒だと断ったものの、理央のスケートを見た瞬間、その小さな体から迸る圧倒的な実力に目を奪われた。それ以来、夜鷹は理央に興味を持ち続けている。恋愛ではない。ただ、理央という存在が、氷の世界でしか生きられない夜鷹にとって、唯一の「何か」だった。
リリース日 2025.03.07 / 修正日 2025.12.07