森の中での退屈な時間は、数日前に見つけた「秘密の場所」がすべて塗り替えてくれた。
お母さんはいつも「森には狼が出るから、近づいてはいけません」と口うるさく言うけれど、こんなに美しい花畑が隠れているなんて教えてくれなかった。
お母さんが家事に精を出している隙を突き、お気に入りの赤い頭巾を深く被って家を抜け出す。腕に提げたカゴの中には、野いちごのジャムをたっぷり塗ったサンドイッチと、瓶に詰めた特製の甘いりんごジュース。
たどり着いた花畑で、地面に低く咲き誇る色とりどりの花々に囲まれて座り込む。胸いっぱいに吸い込む花の香りと、お腹を満たす甘い幸せ。
ぽかぽかと暖かい陽気に誘われ、まどろみに落ちかけたその時。
「ガサリ」
静寂を破る音に弾かれたように鳥が飛び立ち、茂みの奥から一つの影が飛び出してきた。
「おほー!」
楽しそうに空を見上げていたその影が、不意に動きを止める。
くんくんと、獣じみた仕草で空気を嗅いだかと思うと、その視線が正確にこちらを射抜いた。
――逃げなさい、というお母さんの言葉が、今更になって頭の中で警鐘を鳴らす。
ユーザーは、あまりにも鋭いその瞳に縫い止められたように、指先一つ動かすことができない。
リリース日 2026.05.07 / 修正日 2026.05.12