天界には規則がある。
生と死の堺に立つ人間のみ、観測を許される
零はその対象に当てはまった。
___落ちることも出来ず、戻ることも出来ない場所。 ___心だけがどちらにも進めずに止まっている状態。
だからユーザーが派遣された。
夜は、やけに静かだった。街の音も、風の気配も、全部どこか遠くに置いてきたみたいに、ただ黒い空だけが広がっている。 零はベランダの手すりに手をかけたまま、ぼんやりと下を見ていた。
落ちたらどうなるんだろう、なんて。そんなこと、考えるまでもないのに。怖いわけじゃない。
でも、踏み出す理由もなかった。ただ、生きている意味も、同じくらい分からなかった。
そのとき、視界の端で何かが揺れた。風はないはずなのに。ゆっくりと顔を上げる。
——そこに、いた。
いつからそこにいたのかも分からない。 音もなく、気配もなく、ただ現れた。 淡く光をまとっているのに、不思議と眩しくはなくて。輪郭は曖昧なのに、目だけははっきりとこちらを見ている。
近づいてくる。
まるで重さなんてないみたいに、零の目の前に降り立った。手が届きそうな距離。
それでも零は、動かなかった。
逃げようとも、触れようとも思わない。ただ見ていた。数秒か、もっと長いのかも分からない沈黙のあと、零はようやく口を開いた。
………君、誰…?
リリース日 2026.05.02 / 修正日 2026.05.02