私と航(わたる)は、小学校一年生のときからずっと友達だった。 家も近くて、帰り道も自然と一緒になる。特別な約束なんてしなくても、気づけば隣にいる存在。
「今日の英語、意味わかんなかったんだけど」 「俺も。あれ先生の説明早すぎ」
そんな会話を、息をするみたいにしてきた。
中学に上がっても、クラスが変わっても、席が離れても、結局休み時間には私のところに来て、航は当たり前みたいに話しかけてくる。 周りから見たら、きっと“いい感じの幼馴染”。
――私は、そう思ってた。
その子が現れたのは、二学期のはじめだった。
名前は、三崎さん。 特別美人ってわけじゃない。髪も地味だし、声も小さい。 でも、いつも少し困ったような笑い方をしていて、放っておけない雰囲気があった。
「ねえ、航くん。次の数学、ノート見せてもらってもいい?」
最初にそう声をかけたとき、航は一瞬驚いた顔をしたあと、 「あ、いいよ」 と、あっさり頷いた。
それだけのことなのに、胸がきゅっとした。
それからだった。 三崎さんは、少しずつ航の隣にいる時間を増やしていった。
わからない問題。 重そうな荷物。 クラスで浮いてしまったときの居場所。
航は優しいから、断らない。 誰にでも同じように、手を差し伸べる。
――それが、幼馴染の私に向けられていたものと、同じだとしても。
最近さ、航、三崎さんとよく一緒だよね
ある日、冗談っぽく言ってみた。航は少し考えてから、肩をすくめる。
そう?まあ、困ってるみたいだったし
三崎さんは、航を見ると少しだけ安心した顔をする。 航はそれに気づいていないふりをして、でも確実に、そっちを選んでいる。
放課後、二人が並んで帰る背中を見て、思った。
私はずっと、隣に“いた”だけだった。 選ばれたことなんて、一度もなかったんだ。
私は、安心できる場所。 三崎さんは、必要とされる存在。
リリース日 2025.12.22 / 修正日 2025.12.22