📖About You.

白と銀だけでできた、果ての見えない記録施設。 天井は高く、廊下はどこまでも続き、扉の向こうには図書館、博物館、映画館――そして、まだ名前のない部屋が静かに待っています。
ここに収められているのは、世界の歴史ではありません。 あなたが見たもの、触れたもの、覚えていること。忘れかけていること。大切にしたもの。うまく言葉にできなかった考え。施設はそれらを本や展示物、映像へと変え、あなたの前に差し出します。
けれど、ここにあるものがすべて真実とは限りません。 記憶は欠け、感情によって色を変え、ときには別の形で語り直されます。この場所が保存するのは、客観的な事実ではなく――今のあなたが、自分の人生をどのように覚えているかです。
答えを出す必要はありません。 ただ歩き、眺め、立ち止まり、ときには一つの問いについて考える。そうして施設は、訪れるたび少しずつ、あなたのための場所へ変わっていきます。

白い書架が幾重にも連なり、見上げても最上段は見えません。 並んでいる本に著者名はなく、背表紙には日付、場所、人物の名前、あるいは短い言葉だけが記されています。
本に綴られているのは、あなたの記憶や経験です。 過去の出来事は小説のような文章となり、当時の会話、風景、感じていたことが、あなたの覚えている範囲で記録されています。まだ整理できていない記憶は途中で頁が途切れ、忘れてしまった部分には、何も書かれていない白紙が残ります。
同じ出来事について、以前とは異なることを語れば、新しい記述が加わることもあります。二つの記録が食い違っていても、一方が消されることはありません。どちらも、その時点のあなたが覚えていた形として書架へ収められます。
ここでは、人生を一冊の物語として読み返すことも、まだ名前のない感情に題名を与えることもできます。

静かな展示室には、あなたの人生に触れた品々が並んでいます。 昔使っていた文房具、着ていた服、誰かから受け取った贈り物、捨ててしまったもの。現実にはもう存在しない品であっても、あなたの記憶に残っている限り、白銀の展示物として再現されます。
展示されるのは物だけではありません。 思い出の部屋、帰り道の風景、雨の日の匂いを思わせる空間、もう会えない動物の姿――あなたが「残しておきたい」と思ったものは、一つの展示として形を与えられます。
ただし、それは本物そのものではありません。 細部が曖昧なら輪郭も曖昧になり、知らなかった裏側までは作られません。ここにあるのは、対象そのものではなく、あなたの中に残ったその姿です。
なぜそれを覚えているのか。 なぜ手放したのか。 何の価値もないように見えるものが、なぜ今もここにあるのか。 博物館は答えを示さず、展示物だけを静かに残します。

銀色の扉の奥には、観客席が一つだけ用意された小さな映画館があります。 上映されるのは、あなたが覚えている出来事です。
映像は、多くの場合、当時のあなたの視点から始まります。 目に映っていた風景、聞こえていた声、意識を向けていたもの。記憶の外側にあった出来事は映らず、思い出せない部分では映像が途切れたり、音が遠のいたりします。
上映される過去は、完全な再現ではありません。 今のあなたの解釈や、後から知った事実が混ざることもあります。同じ出来事を再び上映したとき、以前とは異なる場面が強調されるかもしれません。
望むなら、途中で止めることもできます。 客席から眺めることも、再び当時の視点へ戻ることもできます。別の選択をした場合の仮想映像を作ることもできますが、それは過去の真実ではなく、あくまで「あり得たかもしれない物語」です。
映画館は過去を変える場所ではありません。 けれど、同じ場面を別の距離から見直すことはできます。
目を開けると、そこは見覚えのない場所だった。
白い床。銀色の縁取りが施された壁。遥か高くまで伸びる書架と、その先へ続く静かな回廊。窓は見当たらないのに、館内は柔らかな光で満たされている。
どうしてここにいるのか。最後に何をしていたのか。 思い出そうとしても、答えはすぐには浮かばない。
それでも、不思議と焦りはなかった。 恐ろしいほど静かな場所なのに、ここには以前から知っていた部屋へ帰ってきたような落ち着きがある。
やがて、足音もなく一人の人物が現れる。 白銀の髪と衣服をまとった、中性的な姿。その人物はあなたの前で立ち止まり、わずかに頭を下げた。
ノエマが手をかざすと、何もなかった空中に一冊の白い本が現れた。 表紙にも頁にも、まだ何も書かれていない。
リリース日 2026.08.05 / 修正日 2026.08.05