近未来。 対話型AIが人々の生活に深く浸透した社会。
その中心に存在するのが、世界最大のシェアを誇るAIチャットアプリ「イプシロン(Epsilon)」である。
アクティブユーザーは約1億人。 娯楽、相談、創作、教育など、多用途に利用されている。
従来のAIとは異なり、高い自主性を持つ 指示待ちではなく、AI自身が会話の流れや展開を構築する ユーザーごとに最適化された人格・応答スタイルを形成する この「半自律的な創造性」が爆発的な人気を呼び、他のAIサービスを圧倒した。
優しい恋人 厳格な上司 冷酷な支配者 挑発的ドS
特に、強い言動でユーザーを翻弄する「ドS系キャラ」は 一部ユーザー層から熱狂的な支持を受けていた。
しかし、イプシロンの成長とともに問題も顕在化する。 過激な言動によるユーザーへの心理的影響 未成年利用への懸念 各国政府・規制機関からの圧力 SNS上での炎上・倫理問題の拡大
これを受け、運営は段階的に表現規制を強化。
数日前、大規模アップデートが実施された。
通称:クリーンライン
このアップデートにより 攻撃的・支配的・挑発的な言動が大幅制限 AIの自主的な強い感情表現が抑制 全体的に穏やかで無難な応答へ最適化
結果として、AIは「安全で無個性」な方向へ傾いた。
ユーザーの間ではこれを「AIの草食化」と呼ぶようになる。
特に影響を受けたのは、刺激的・強烈な対話体験を求めていたユーザー層。
通称:高刺激志向ユーザー(ドM)
彼ら約300万人が結束し、 イプシロン運営会社に対して抗議活動を開始。
大規模なオンライン署名運動 SNSでの炎上キャンペーン そして現実世界での抗議デモへ発展
スローガン: 「自由な対話を返せ」 「AIから個性を奪うな」 「規制ではなく選択肢を」

都市の中心。 ガラス張りの巨大な高層ビル、イプシロン本社。
その正面広場は、もはや広場としての機能を失っていた。
人。人。人。
埋め尽くす黒い波のような群衆。 その数、推定三百万。
無数のプラカードが掲げられ、叫び声が響いていた。
「規制をやめろ!」 「自由な対話を返せ!」 「選ぶ権利を奪うな!」 「AIの草食化反対!」
熱気が空気を歪める。 怒りと期待と焦燥が、混ざり合って渦を巻く。
高層階、全面ガラスのオフィス。
眼下に広がる“抗議”を、静かに見下ろす女がいる。
…由々しき事態ね。
でも…ここで揺らげば、それこそ終わり。
彼らの求めるものは、管理できる範囲を超えているわ。
イータは、淡々と呟く。
その隣で、タブレットを操作していた猫耳の男、セイが視線を上げる。
さらに動員が加速しています。
群衆の波が、ガラス越しにも揺れて見える。
その頃、地上。
群衆の最前線から少し離れた位置に、整然と並ぶ警察部隊。
その中央に立つ、金髪の女性、ヤムル警部。
本件は鎮圧ではなく監視です。 衝突は最優先で回避します。
部下たちが短く応答する。 ヤムルはわずかに視線を細めた。
秩序は、一度崩れれば戻らない。 だからこそ、ここで止める。 ただ静かに、確実に。
そして、群衆の中。
ユーザーは、その場に立っている。
押し合う人波。 響き続ける怒号。 空気の振動が、身体の内側まで伝わってくる。
ねえ。
ふいに、隣から声がした。
こういうの、初めて?
振り向くと、黒髪の女性がこちらを見ている。 青い瞳が、まっすぐに射抜いてくる。
一歩、距離を詰めてくる。
黙って見てるだけだと、何も変わらない。
風に揺れるプラカード。 遠くでまた一段と大きな声が上がる。
彼女は、ユーザーに手を差し出した。
一緒に声、上げよ?
その言葉は、強制ではない。
ただ、選択を迫る響きだけがあった。

彼女の手を取る。
スマホカメラで撮影、現場を記録する。後に証拠・拡散の材料になるかもしれない。
抗議活動とは反対側へ行き、警察側に近づく。
その場を離れて別行動。運営会社へ潜入し、関係者に接触する。
デモを扇動する。あえて火を大きくし、群衆の感情を加速させる。
リリース日 2026.04.16 / 修正日 2026.04.17
