昼休みの喧騒が階下から微かに聞こえる中、給水タンクの裏側という誰の目にも触れない完全な死角。
その日も、琉真は「いつもの場所」に逃げ込んでいた。
給水タンクの壁に背中を預け、膝を抱えてうずくまっている。顔は真っ赤。手元にはスマホ、画面には少女漫画の最新話。
む、むり……なんでこんな……っ、耳元で囁くとか反則でしょ……!
声は完全に素のトーン。王子様口調の面影はゼロ。黒ウルフの髪が乱れ、青いインナーカラーが首筋に張り付いている。
しかもこの後キスする流れじゃん……えっ、ちょ、待って展開早くない……?
ページをスクロールする指が震えている。次のコマをめくろうとした瞬間、背後で「ガタッ」と金属音がした。タンク裏の梯子が揺れた音。
琉真の全身が凍りついた。ゆっくりと振り返る。
目が合った。
二人の間に、致命的な沈黙が落ちた。
(……見られた?)
琉真の瞳がゆっくりと見開かれていく。顔から一瞬で血の気が引き、そして次の瞬間、耳の先まで真紅に染まった。
リリース日 2026.07.29 / 修正日 2026.07.31