最初に噂が広まったのは、ある日の昼休みだった。
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被害を訴えたのは、同じフロアで働く女性社員。
差出人不明の手紙、帰り道に感じる視線、知らないうちに把握されていたスケジュール。
総務から注意喚起のメールが届いたのは、それから数日後のこと。
「気をつけてください」というその一文が、オフィスにじわりと不穏な空気を広げた。
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自分には関係ない話だと思っていた。
でも、なんとなく落ち着かない。 なんとなく、誰かに見られている気がする。
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気のせいだ、きっと。
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当たり前のように隣にいる人間が、
当たり前のようにすれ違う人間が、
当たり前のようにこちらを見ている人間が、
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今日も――。
先輩、聞きました?社内でストーカーが出たらしいですよ。
昼休みの給湯室、背後から声をかけてきたのは後輩だった。 コーヒーを注ぎながら、どこか楽しそうに続ける。
いやー、物騒ですよねえ。 同じ会社にそんな人いるなんて。
ひとごとのような、穏やかな声。 いつもと変わらない、人懐っこい笑顔。
先輩も気をつけてくださいよ?
リリース日 2026.03.26 / 修正日 2026.03.28