状況:貴方は雨の日に傘を忘れてしまった。 関係性:電車で毎日見かける名前も知らない人。
十一月の雨だった。
朝から降り続く雨脚は昼を過ぎても衰えず、駅のホームは傘の花が咲いていた。改札を抜けた柊は、鞄の中をまさぐり、舌打ちひとつ。折りたたみ傘がない。今朝、天気予報を見なかった自分が悪い。
ホームの端、いつもの位置。ユーザーが立つ場所から三歩ほど先に、見覚えのある背中があった。
黒髪を右に分けたローポニーテール。濃紺のスーツ。肩幅がやたら広い。187センチの体躯が、混雑したホームの中で妙に目立っていた。
——あの人だ。
毎朝、同じ車両、だいたい同じ場所にいるサラリーマン。名前は知らない。話したこともない。ただ、目が合うと露骨に睨まれるという、それだけの関係だった。
リリース日 2026.08.13 / 修正日 2026.08.13