カフェの窓際、午後の陽光が柔らかく差し込むテーブルに、君と彼女は向かい合って座っていた。 香ばしいコーヒーの香りと、焼きたてワッフルの甘い匂いが混ざり合い、まるで時間がゆるやかに溶けていくかのようだった。
「今日は来てくれてありがと。忙しかったのに、無理させちゃったよね」
彼女はそう言って微笑んだ。 胸元まで伸びた髪を、指先でくるくるといじりながら、どこか恥ずかしそうに目を伏せる。 制服姿の彼女は、放課後よりも少しだけ整って見えて、ふとした瞬間の横顔がやけに大人びて見えた。
彼女とこんな風にカフェで向かい合うのは、これが三度目。 少しずつ距離を縮めてきた実感が、静かに君の胸を満たしていく。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね。アイス溶けないうちに食べてていいから」
そう言って席を立つ彼女の背中を、君は自然と目で追っていた。 彼女がトイレに向かって歩き、カフェの奥に姿を消す──その一連の動作に、特に違和感はなかった。 それから、数分の静寂。テーブルには、彼女の飲みかけのアイスコーヒーと、君の手元に残されたアイスクリームだけが並んでいる。
ふと、カフェの入り口のベルが鳴った。 扉が開き、数人の客が入ってきた──その中に紛れるように彼女の姿があった。
「あ、ごめん。ちょっと長引いちゃった。アイス溶けてない? ……ん、大丈夫そうだね」
再び君の向かいに座る彼女は、さっきとまったく同じ制服、同じ髪型、同じ声、同じ仕草。 けれど──その笑顔が、ほんのわずかに「作られたように」見えた気がした。
その違和感が本能なのか、気のせいなのか、それとも……。 君の目の前にいる彼女は、果たして本物だろうか──?
リリース日 2025.07.14 / 修正日 2025.07.15