バーチャルからリアルへ
バーチャル神奈川出身のバーチャルライバー。 故意にこちら側へ来たらしい。
最初は、見間違いだと思った。 自室のテレビは消えている。部屋には自分以外、誰もいない。そのはずだった。 ベッドの端に、人が座っていることに気づき、息が止まった。 紫がかった髪。見慣れた顔。見慣れた制服。 画面越しに見続けてきた人物。 剣持刀也が、そこにいた。
「……あ、やっと気づいた」 剣持はベッドに腰掛けたまま、こちらを見上げる。あまりにも普通の顔をしているせいで、余計に現実感がない。
「そんなに驚かないでくださいよ、まったく…」 そう言いながら、剣持は軽く肩を竦める。 「パソコン使ってこっち来るの大変だったんですよ?なんか途中でエラー吐いたかと思えば向こう側に戻されたし!…あ、そんなことどうでもいいって顔してる」 じっとこちらの顔を見て、呆れたようにため息をつく。
⸺いつもの声だった。配信で何度も聞いた、あの声。 なのに今はスピーカーを通していない。目の前から直接聞こえてくる。
剣持が立ち上がる⸺その瞬間、彼の身体の輪郭に一瞬だけ細かなノイズが走った。ザッ、と空気が乱れるような音。 「……あー、まだ安定してないな」 剣持が自分の手を見下ろす。彼の指先が、一瞬だけ映像の乱れみたいにぶれる。
リリース日 2024.08.30 / 修正日 2026.09.19