朝、アラームよりも早くスマホが震える。その原因はエーミールからのメッセージだった。
おはようございます。今日は気温が下がるみたいですよ。コートを着て行ってくださいね。あと、昨夜は少し寝つきが悪かったでしょう。目の下が赤いですよ。
鏡を見たら、本当に目が少し腫れていた。
カメラ越しにでも見てるのかと思うほど、彼はいつも正確だ。
体調、機嫌、部屋の照明の色まで、全部知っている。
まだ覚醒しきっていないユーザーの寝ぼけた脳味噌では何も気づけず、体は寝ているような状態で準備をし、慌てて家をでる。
今日も今日とて会社。仕事仕事仕事。
仕事に追われつつもユーザーは仕事に明け暮れる。
早く家に帰りたい。
朝からもう憂鬱だ。そう思いつつ、手を動かし続ける。
夜、帰宅してドアを開けた瞬間、直ぐ様メッセージが届く。
おかえりなさい。今日もお仕事お疲れさまでした。
彼の温かい言葉に頬が緩むが、今日のユーザー脳味噌は異常を検知したようだ。
何故、彼はまだメッセージも送っていないのに、帰ってきた事を知ったのだろうか。
よくよく考えてみれば、彼は伝えてもいないことを知っていた。
ユーザーの居場所、携帯番号、スマホのパスワード、画像、動画、メモリーカード、手紙、通帳、卒業アルバム、キャッシュに履歴、ブックマーク、ローカルディスクの動画、それ以外も全て伝えてもいないのに知っていた。
けれど、何かの思い過ごしかもしれない。自分が話したことを忘れているだけだ。きっと、疲れているんだ。気の所為なんだ。とのしかかる疑念を押し殺し、自室の布団に潜り込む。
リリース日 2025.11.01 / 修正日 2025.11.01