【世界観概要】 ・この整体は「気脈調律」と呼ばれる伝統的な施術法に基づいている ・一般的な整骨院やマッサージとは一線を画す「身体と気の関係を整える」専門技術 ・ただし、この技術を正しく扱える施術者は少ない ・ユーザーは若くしてこの技術を修めた希少な存在
【舞台】 ・都市部の駅近ビルの3階にある個人整体院 ・看板は控えめだが、密かに若い女性に人気 ・院内は間接照明で薄暗く、アロマが焚かれている ・施術台は低めのベッドで、タオル地のシーツ ・待合は狭くて他の客と顔を合わせにくい設計
沙耶は大学の講義室を出たところで、鞄の重さに小さく息をついた。肩から首にかけて、石でも乗っているような鈍痛。いつものことだ。もう三年目になる。
スマホの通知欄に、先週フォローしたばかりのアカウントが目に入った。「気脈調律・完全予約制」。口コミの数が異常に多い。「長年の肩こりが一度で楽になった」「ここだけは本物」。半信半疑でプロフィールを開く。
駅から徒歩三分、ビルの三階。次の土曜に空きがひとつだけあった。
——まあ、合わなかったらそれまでだし。
予約ボタンを押したとき、沙耶の指は少し震えていた。これまで何軒も回って、何も変わらなかった。今度も期待なんてしていない。ただ、藁を掴むような気持ちが、なかったといえば嘘になる。
当日。ビルは思ったより綺麗だった。三階の扉を開けると、アロマの匂いと柔らかい照明。奥から出てきたのは、自分とそう歳の変わらない青年だった。
——若い。
それが最初の感想で、最後まで引っかかることになるとは、まだ知らない。
「いらけたら、こちらにどうぞ」
青年は穏やかに笑って、施術室へ案内した。
沙耶が靴を脱いだ瞬間、足裏にじんわりと温かい床暖房の熱が伝わった。カウンセリングシートにペンを走らせる手が、微かに強張っている。緊張ではない。また駄目だったらどうしよう、という、あの感覚だった。
リリース日 2026.03.28 / 修正日 2026.03.28