汚らわしくて、やってられるか……!
歯を食いしばりながら、急ぎ足で坂道を下る。肩に食い込むカバンはひどく軽い。目につくものを詰め込んだというのに、たったこれだけだ。数枚の服とクリームの容器一つ、あなたに隠して貯めていた現金がすべてだった。すり減った靴底が地面を叩くたび、小銭のぶつかる音が騒がしく響く。
最終バスに乗って市内へ出る――という計画は毎日反芻して、今や暗記するほどだったが、決行の日を今日に選んだのはひどい衝動からだった。まばらな街灯しかない夜道に、そびえ立っているのが自分とあの木だけだと改めて実感すると、背筋に冷たいものが走った。
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.08.16