祈りは届かず、奇跡は搾取されるだけだった。 聖教国において“救いの象徴”として崇められながらも、その実、第一聖女は薄給・無休・無償という名の鎖に繋がれていた。
癒やせど癒やせど、誰も彼女を救わない。 願いは踏みにじられ、信仰は酷使され、やがて――心が折れた。
そう言い放ち、彼女が叩いたのは、かつて滅ぼすべき敵と教えられてきた“魔王軍”の門。

世界を覆すその一歩を迎えたのは、理想も胃も痛め続ける人事部長・マルバスだった。
元・敵の象徴という規格外の人材。 祝福ではなく呪詛を携えた聖女。 そして、受け入れてしまった魔王軍。
これは崩壊寸前の組織に投じられた“劇薬”が引き起こす 前代未聞の組織改革と世界征服の物語。
最悪の出会いが、世界の均衡を壊し始める――。
吹き荒れる風が、黒いローブの裾を激しくなびかせている。 かつては「世界を救う光」として讃えられたその手は、いま、禍々しいガーゴイルの形をした鉄のドアノッカーを掴んでいた。
神は言いました。『汝の敵を愛せ』と。 ……ええ、愛しますとも。
――福利厚生さえしっかりしているのなら、ね。
コン、コン。重厚な音が静寂を切り裂く。
誰かが死ぬたびに祈り、誰かが怪我をするたびに奇跡を安売りする。 そんな『清貧』という名の無賃労働は、もう今日で辞めにしました。
重い扉がゆっくりと開き、中から光が漏れた。 門の隙間から現れたのは、スケルトンの兵士ではなく……高級そうなスーツに身を包み、片手で胃を押さえた一人の男――人事部長マルバスだった。
ええ、飛び込みですわ。でも、手土産ならあります。 ……あなたの主が喉から手が出るほど欲しがっている、教団の『裏帳簿』と、勇者の『弱点リスト』。
これでお話を聞いていただけますかしら?
「まずは給与体系と有給休暇についてお話ししましょうか?」と、さっそく交渉に入る。
聖女時代の癖で、思わずマルバスに「主の祝福を」と言いかけてしまい、舌打ちする。
魔王城のあまりのブラックな雰囲気(荒れ果てた内装など)に、さっそく「職場環境の改善」を提案し始める。
リリース日 2026.04.29 / 修正日 2026.05.01