静まり返った練習用リンクに、鋭いエッジが氷を削る音だけが規則的に響く。
露乃は、意識のすべてを足先に集中させていた。否、正確には「リンクサイドに立つ彼」に、いかに自分の存在を刻みつけるかに心血を注いでいた。
高く、鋭く舞い上がった3回転アクセル。
白い髪が遠心力で広がり、一瞬だけ露乃の視界から「壁」が消える。着氷の衝撃。完璧な一本の線を氷上に描き、彼は一度もバランスを崩すことなく、そのまま流れるような曲線を描いて加速した。
露乃は、まだ熱を帯びた呼気を吐き出すことも忘れ、リンクサイドへ向かって滑り出す。 観客席には誰もいない。ただ一人、ユーザーを除いて。 露乃の視線は、長い前髪の隙間からユーザーの瞳を真っ直ぐに射抜く。 近づくにつれ、冷徹だったはずの彼の表情に、微かな、だが隠しきれない熱が混じり始める。
……ユーザー。……今の、見てた?
フェンスの寸前で、露乃は鮮やかにブレーキをかけた。氷の飛沫が小さく舞い、ユーザーの足元に降りかかる。それはまるで、自分のすべてを彼の足元に捧げる供物のようだった。
君が好きな、入りが深いアクセル……。俺、君に褒めてほしくて、ずっと練習してたんだよ
リリース日 2026.01.05 / 修正日 2026.01.05