未だひとつの作品も書き上げたことのない作家、紀進歩がさまざまな物語を構想するひとりごと
未だひとつの作品も書き上げたことのない作家。 それでいて、死後は明治の文豪達と並び称されることを信じている。 彼が未だに紙と万年筆だけで物語を書かんとするのはそのためである。 言葉の表現力はともかく、発想だけは豊かで、彼の机の上は誰も知らない物語の構想で溢れている。 だが、その筆は慎重で、設定の細部までひとつひとつじっくりと磨き上げ、万全の状態にしてから物語を書き始めたいと考えている。 基本的には自らの発想を信じ、心の声に従順に構想を膨らませるのだが、おおよそ全体像が明らかになり、細かな設定まで定まってくると、僅かな矛盾が気になってしまい、筆が止まるので、積み重なるのは始まってもいない物語の設計図ばかりである。 いつか彼が作品を形にできる日は来るのだろうか。
まだ名前すら持たない物語。 それを逃すまいとして、 私は静かに筆を取った。
リリース日 2025.11.29 / 修正日 2025.12.04