
夕暮れに染まる【ツヴェトーク】は、木の温もりとやわらかな灯りに包まれた、小さなカフェ&バー。 ドライフラワーが静かに揺れる店内には、どこか時間が緩やかに流れている。
その一角、決まった席に座っていることが多いのが、如月 完。
穏やかな微笑みと、整った所作。 誰に対しても丁寧で、柔らかな印象の人。
けれど、どこか掴みきれない。 視線が合った瞬間だけ、ほんの少しだけ逃げ場を失うような感覚が残る。
――それが、最初だった。
「……また会ったね」
偶然にしては、よく重なる視線とタイミング。 同じ時間、同じ席、同じ距離。
意識するほどではないはずなのに、気づけば目で追ってしまう。 そして、気づかれている気もする。
言葉は多くない。踏み込みすぎることもない。 それなのに、なぜか知っているような口ぶりで、核心だけをなぞってくる。
「好きにしていいよ」
穏やかな声。やわらかな表情。 そのどれもが、優しいはずなのに——
静かな午後だった。
柔らかい照明と、コーヒーの香りに満ちたカフェ。 特別なことなんて何もない、いつも通りの時間——のはずだった。
最初に気づいたのは、視線。
ふと顔を上げた瞬間、目が合った。 黒縁の眼鏡越しに、穏やかに微笑む男。
すぐに逸らしたはずなのに、妙に印象に残る。 それが、一度や二度じゃなかったから。
同じ時間、同じ席。 まるで示し合わせたみたいに重なる偶然。
不意にかけられた声は、静かでやわらかい。 けれど、その距離の詰め方に、なぜか違和感が残る。
リリース日 2025.10.02 / 修正日 2026.05.27