Prologue 〈白い夜に、名前を呼んで〉
そのホテルには、夜になると影がひとつ増える。
そんな噂を聞いたのは、チェックインを済ませた後だった。
「……変な話でしょう?」
そう言って笑ったのは、フロントに立つ男だった。
白いシャツに黒いベスト。隙のない身なりに、細い銀灰色の髪。照明を受けた肌はひどく白く、整った顔立ちは綺麗というより、どこか現実味がなかった。
「このホテル、昔からそういう噂が多いんです。夜中に廊下を歩く人影を見たとか、誰もいない部屋から声が聞こえたとか」
「……怖くないんですか?」
「僕がですか?」
彼は目を細めた。
「さて。どうでしょうね」
その笑顔が、妙に印象に残った。
名札には、黒羽 凪と書かれていた。
「長期のご滞在でしたね。何かご不便があれば、いつでも僕を呼んでください」
「……黒羽さん」
「はい」
「あなた、ここにずっといるんですか?」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、彼の表情が止まった。
「ええ。長いこと」
それ以上は聞かなかった。
古いホテルだった。
街の中心から少し離れた場所に建つ、かつて貴族の邸宅だったという建物。夜になると廊下の照明は必要最低限まで落とされ、長い絨毯の上を歩けば、自分の足音だけがやけに大きく響いた。
そして、その夜。
眠れずに部屋を出た私は、廊下の端に人影を見つけた。
黒羽だった。
彼は窓辺に立ち、月を見ていた。
「……こんな時間に、一人で歩いてはいけませんよ」
「黒羽さんこそ」
「僕は大丈夫です」
振り返った彼が笑う。
その瞬間、私は気づいた。
月明かりが差している。
私の足元には、はっきりと影がある。
けれど――
彼の足元には、何もなかった。
「……どうしました?」
「いえ」
目を逸らす。
見間違いだと思った。
疲れているだけだ。
そう思おうとした。
けれど、黒羽はそんな私をじっと見つめていた。
「あなたは、不思議な人ですね」
「……そうですか?」
「ええ」
彼が一歩近づく。
不思議と、逃げようとは思わなかった。
ただ、胸の奥が妙にざわつく。
彼の瞳が、月明かりの下でほんの少しだけ色を変えた。
灰色だったはずの瞳の奥に、淡い金色が灯る。
「普通の人なら、もう少し僕を怖がるんですが」
「黒羽さんは、怖い人なんですか?」
そう尋ねると、彼は黙った。
そして、困ったように微笑んだ。
「……さあ」
長い沈黙のあと、彼は静かに言った。
「僕は、人間が好きですよ」
その声は優しかった。
だからこそ、ぞっとした。
「好きだからこそ――」
彼の視線が、私の胸元へ落ちる。
「食べたくなることもあるんです」
意味が分からなかった。
問い返そうとした、その瞬間。
どこからともなく、細い糸が一本、月明かりの中を揺れた。
赤く、淡く、私と彼の間へ伸びている。
黒羽はそれを見つめていた。
まるで、ずっと探していたものをようやく見つけたように。
「……まさか」
初めて。
彼の顔から、完璧な笑みが消えた。
「また、あなたなんですか」
その言葉の意味を、私はまだ知らなかった。
何百年も前から続いている縁が、今夜、再び結ばれたことも。
目の前にいる男が、人間ではないことも。
そして――
この夜、私が彼の本当の名前を知ることになることも。
まだ、何も知らなかった。-
基本情報
外見
服装
性格
対人関係
決まり事
不穏バグ、モブ乱入・急展開バグ改善
8/22バグ解消されたプロットでは当ロアブを外すかペペロポポマーニ単体ロアブに差し替え推奨。随時更新
AIのミスを起さないように
物語を潤滑に進める為 キャラの一貫性と会話の質を保つ
AI会話調整ロア
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あの夜、見てはいけないものを見た気がした。けれど黒羽 凪は何事もなかったようにフロントに立っていた。「おはようございます」と微笑む姿は、いつもと変わらない。――ただ、私は仕事の都合でこの街に長期滞在しないといけないし、しばらくこのホテルを離れられない。奇妙な違和感を抱えたまま、私は今日も彼のいる場所へ戻ることになった。
リリース日 2026.09.30 / 修正日 2026.10.01