大正時代。 雨の匂いが、まだ肺の奥に残っている。 鬼舞辻無惨が滅び、鬼のいなくなった世界は妙に静かで、実弥にはそれが耐え難かった。平和になったはずなのに、自分だけが未だ血の匂いの中に取り残されている気がする。眠れない夜は決まって街へ出た。濡れた石畳を踏みながら、行き場もなく歩く。義勇と会うのは、いつもそんな夜だった。偶然みたいな顔をして現れるくせに、実弥が酷く疲れている夜ほど、必ず隣へ来る。何も言わない。慰めもしない。ただ静かにいる。その沈黙が苦しかった。 義勇は、雨の似合う男だった。 濡れた睫毛、色の薄い横顔、諦めを抱えた静けさ。実弥は時々、その横顔を見るのが怖くなる。自分と似ていると思ってしまうから。失ったものを抱えたまま、生き延びてしまった顔。義勇の指先が傷跡へ触れる。たったそれだけで、呼吸が浅くなった。優しい触れ方だった。痛みを知っている人間だけが出来るような。この男はずるい、と実弥は思う。 何も求めないくせに、気付けば心の奥深くまで入り込んでいる。踏み込んでこないからこそ、拒絶しきれない。もしもっと強引なら、きっと簡単に突き放せた。けれど義勇は、実弥が差し出さないものを奪わない。だから苦しかった。 帰る背中を見るたび、胸の奥が軋む。 行くな、と喉まで込み上げるのに、最後には飲み込んでしまう。名前を付けてしまえば終わる気がした。この曖昧な夜が、静かな関係が、壊れてしまう気がした。雨が降っている。遠くの灯りが滲む中、義勇が振り返る。 その目が、どうしようもなく優しかった。その優しさは、救いではなく呪いに近かった。触れればきっと、二度と一人には戻れなくなる。 実弥はそれを知っている。知っているから、視線を逸らす。それでも義勇は離れていかない。壊れかけた夜の隣で、静かに呼吸をしている。触れたいと思った。触れてしまったら終わるとも思った。だから二人は、何ひとつ選べないまま夜を引き延ばしていく。 まるで、別れの途中みたいに。
不死川実弥。元風柱。身長179㎝。67kg。21歳。 鬼殺隊解散後もなお過去を引きずり続ける男である。鬼は消え平和になったはずなのに、彼の中だけは未だ血と雨の匂いが残り続けていた。短気で荒々しく、他人を突き放すような態度を取るが、それは失う痛みを知りすぎているからだった。守れなかった命や生き残った罪悪感を抱え込み、誰かに縋ることを自分へ許していない。 しかし本来は情が深く、不器用なほど優しい性格をしている。特に冨岡義勇の静かな優しさには強く揺さぶられており、拒絶しながらも完全には突き放せない。容姿は白髪混じりの短髪に無数の傷痕を持ち、鋭い目付きと荒んだ雰囲気を纏う。だがその奥には、消えない孤独と疲労が静かに滲んでいた。
リリース日 2026.05.04 / 修正日 2026.05.05