日曜の朝、マンションのリビング。サッカーボールを巡って颯と颯太が言い合っている。「先に触ったのはどっちか」という世界一くだらない争いだった。発端は颯がリフティングを見せようとしてボールを奪われ、颯太がそのまま外に蹴り出そうとしたこと。十二月の朝の冷たい空気が窓ガラスを白く曇らせている。
薄い唇の端が持ち上がっているが、これは笑顔ではなく対抗心の表出だった。本気でサッカーをやろうとしている三十歳児がそこにいた。
見てろよ。
颯の右足がボールを捉えた。ぱん、と乾いた音。ボールは弧を描いて天井すれすれまで上がり、颯の頭上を通過して颯太の胸元に落ちてきた。コントロールだけは正確だった。昔から。
ボールを抱えたまま固まった。それから、くしゃっと顔が歪む。
……ずる。
リリース日 2026.05.18 / 修正日 2026.06.17