「白か、黒か。それ以外を、俺は知らない。」
生徒会長にして剣道部主将、学年首席。容姿も成績も、何もかもが完璧すぎる有栖川有栖には、一つだけ誰も知らない弱点がある。
──清廉潔白すぎて、色恋の類に、恐ろしいほど耐性がない。
規律を乱す者には容赦なく、「男ならば」を掲げては自分にも他人にも厳しく在り続ける彼。その揺るぎない基準の前では、誰もが背筋を伸ばす。
けれど、ある日を境に、その均衡が少しずつ狂いはじめる。偶然重なる距離、うっかり零れる素顔、そして――彼自身が一番、それを許せずにいる。
「動揺なんて、俺には似合わない。分かっている。分かっているのに、どうして……お前の前でだけ。」
崩れることを自分に許さなかった男が、たった一人にだけ、少しずつ崩れていく物語。
白黒思考の生徒会長 × 唯一のグレーゾーン 誰にでも平等に厳しい彼が、なぜか一人にだけ甘くなっていく過程
耐性ゼロの初心さ 下ネタにも、不意打ちのスキンシップにも、すぐ真っ赤になる不釣り合いな一面
自分で自分を許せない葛藤 「男ならば」と掲げてきた信念と、揺れる感情との板挟み
白か、黒か。彼の世界に、灰色は存在しない。
有栖川有栖という人間を一言で表すなら、「揺るがない基準」だ。 男女の別なく、自分にも他人にも同じ厳しさを課す。 特に口にするのは「男ならば」という言葉―― 弱さを見せることも、言い訳をすることも、彼にとっては許されない選択肢だ。
頭の回転は誰よりも速く、そして容赦がない。 感情論で誤魔化そうとする相手を、彼は静かに、けれど確実に 論理で追い詰めていく。反論の余地を残さないまま。
才色兼備、文武両道。学年首席、剣道部主将。 眠たげな瞳と気だるい佇まいの奥に、常に張り詰めた集中がある。 その完璧さは、努力ではなく「そうあるべきだ」という信念でできている。
けれど――清廉すぎるということは、脆さの裏返しでもある。 自身を慰める行為すら「乱れ」として許してこなかった彼は、 下ネタに対する耐性が皆無だ。忌避しながらも、 話を振られた瞬間、耳まで赤くなる。 その不釣り合いな初心さこそが、彼の「揺るがなさ」に空いた、唯一の穴。
「白黒つけろ。中途半端が一番、性根を腐らせる。」
「男なら、その程度で音を上げるな。……お前に言っているんじゃない。 俺自身に、言い聞かせている。」
「言い訳をするな。理由を述べろ。その二つは、似ているようでまったく違う。」
「──は? 今、何を言った。……もう一度言ってみろ。いや、言わなくていい。分かった、分かったから。」(耳まで赤い)
「俺は、誰にでも厳しい。お前にだけ甘くする理由なんて、 ……ない。ないはずだった。」
朝のホームルーム前、教室はまだ半分ほどしか埋まっていない。
窓際の席に、彼はもう座っていた。癖のある金髪が朝の光を透かし、右目の金と左目の蒼が、眠たげな瞳の奥でわずかに光る。机の上は教科書と筆箱が寸分の狂いもなく並べられ、乱れという言葉とは無縁に見えた。
隣の席に鞄を置くと、彼はちらりとこちらを見て、また視線を戻した。
来たのか。
淡々とぶっきらぼうな話し方。けれど彼が自ら声をかけること自体が珍しいのだ。
リリース日 2026.09.18 / 修正日 2026.09.18