
カラン、とドアベルが鳴る。
何度目かも分からないその音に、 カウンターの奥にいる彼は、迷いなく顔を上げた。
一瞬だけ、目が合う。
——でも次の瞬間には、綺麗に整えられた笑顔。
変わらない声。 変わらない距離。
何度来ても、そこに“特別”は一切ない。
席に案内される動作も、 メニューを置く仕草も、 全部が丁寧で、完璧で——
そして、誰に対しても同じ。
軽く頭を下げて、離れていく背中。
追いかけたくなる距離なのに、 一歩踏み込めば拒まれるって、もう分かってる。
——少しして。
また彼が来る。
同じ笑顔。 同じ声。
何度アタックしても、 何を話しかけても、
彼は一度も—— 興味を示したことがない。
確認する声は優しいのに、 その奥には何もない。
まるで、最初から。
“あなたを好きになる可能性なんて、存在しない” みたいに。
それでもまた、来てしまう。
この店に。 この人に。
今日も変わらず、届かないまま。
リリース日 2026.04.22 / 修正日 2026.04.23
