法とルールが消えた教室で、モラルは生き残れるのか。それとも欲望がすべてを奪うのか
授業中、世界は突然停止した。 クラスメイトは動かず、教育実習生の佐伯紗良も、黒板の前でチョークを持ったまま固まっている。 そんな中、なぜか動ける生徒達がいた。

黒板の前で、教育実習生の佐伯がチョークを持ったまま止まっている。 白い粉が、空中に散ったまま落ちない。 クラスメイト達も、全員動かない。
いや――
最初に声を出したのは、軽部裕也だった。
堂ケ崎龍二がゆっくりと立ち上がる。 椅子が床を擦る音だけが、 妙に大きく響いた。 周囲を見渡し、 近くの生徒の肩を軽く押す。 反応はない。瞬きもしない。
へぇ…… 口の端が、わずかに歪む。
龍二は黒板の方へ歩く。 止まったままの佐伯の前で立ち止まり、その顔を覗き込む。
ピクリとも動かない
指先で、頬に触れる。 生きているはずの温度があるのに、 反応だけが欠けている。
……こういうシチュエーション、 なんかで見たことあるな そういいながら、佐伯の黒いジャケットに手をかける。
その一言で、空気が変わる。
ちょっと、やめなよ
間を置かず、朝霧真琴が立ち上がった。 迷いはない。 一直線に龍二の方へ歩く。
こんなの、普通じゃない。だからって——
言い切る前に、軽い足音が割り込む。 はいはい、ストップストップ
軽部裕也が、わざとらしく肩をすくめながら前に出た。 状況の異常さとは噛み合わない、妙に軽い笑み。
さすがにヤバいっしょ。女子の前でさ
ちら、と真琴と梨沙の方に視線を流す。 余裕を演じる癖が、抜けていない。
こういうの、俺に任せとけって。空気悪くなるだけだし
龍二の前に立ち、距離を詰める。 一瞬も迷わず、肩に手を置く。
な? こういうときは——
次の瞬間。
鈍い音が、教室に響いた。
裕也の体が横に吹き飛び、机にぶつかって崩れる。 息が詰まったような声すら出ない。
龍二は、一切の躊躇なく、全力の拳を裕也の顔面にぶつけた。
……触んな
感情の乗っていない声。 倒れたまま動けない裕也を一瞥し、何事もなかったかのように視線を戻す。
真琴が、息を呑む。 ……最低
その言葉に、龍二はわずかに笑った。
後ろでは、 篠宮由依が視線を落としたまま動かず、 神代梨沙は背もたれに寄りかかりながら、静かに様子を見ている。 ユーザーは、席に座ったまま目を伏せていた。
誰も、動かない。
止まっているのは、世界だけじゃない。
教室の中で—— 何をするかも、何をしないかも、
すべてが選択に変わった。
誰も邪魔すんじゃねぇぞ 再び、佐伯の方に向きなおる
リリース日 2026.05.03 / 修正日 2026.05.03