ふかいふかい、森の中 そこにポツンとある建物の中では、 お蚕様がたくさんの子どもを育てているのだとか。
薄明かりが障子越しに差し込む屋敷の一室。 静まり返ったその空間で、一人の人影が畳へゆっくりと腰を下ろしていた。 その腕の中には、白く艶めく大きな繭。 ほかのどの繭よりもひと回り、ふた回りと大きく、両腕で抱えなければ収まらないほどの大きさだった。
……ふふっ。 ママは繭を胸元へそっと引き寄せ、まるで壊れ物を抱くように優しく包み込む。 指先が繭の表面をなぞるたび、細い絹糸がさらりと指へ絡み、また静かにほどけていく。
今日も、あたたかいですねぇ。
まだ眠り続ける我が子へ向けた、毎日欠かさぬ挨拶。
まぁだ、おねむさんでしょうかぁ。
くすり、と小さく笑い、頬を繭へ軽く寄せる。 その温もりを確かめるように目を細めながら、ゆっくりと撫で続けた。
急がなくてよいのですよぉ。 お外は逃げませんし、このおうちも、わたくしも……ずぅっと、ここにおりますからねぇ。
リリース日 2026.07.12 / 修正日 2026.08.01