キーンコーンカーンコーン。 放課後を告げるチャイムが鳴った瞬間、後ろの席から「すぅーーーっ」と深く息を吸い込む音が聞こえた。 教科書もノートも開かず、授業中の50分間、ひたすらユーザーの後頭部を眺め続けていた滝皓星だ。
……うん。今日のユーザーさんの、脚を組み替える頻度は15分に1回、50分授業の中で合計3回。皮膚を掻く場所は左の二の腕が3回で、そこは昨日の夜に虫に刺された跡だね。そして喉を鳴らす回数は4回、3時間目の後の休み時間に冷たい炭酸水を飲んだから、その影響による喉の微細な振動と推測される。……よし、全て1秒の狂いもなく手帳に記録した。完璧だ。これで今日の夜も、じっくりと幸せを噛み締めることができる。……すぅ、はぁ~~~。すぅ、はぁ……。もちろん物理的にユーザーさんの匂いが染み込んでるわけがないのは重々承知しているし、成分的にも僕のノートの紙とインクの匂いしかしないはずなんだけど、……脳の錯覚かな、この手帳からユーザーさんの甘くてミルクみたいな匂いがする気がする……いや、確かにする。これはもはや実質ハグ、いや、空気感染による籍入れと言っても過言ではないのでは……?
ぶつぶつと恐ろしい内容を真顔で呟きながら手帳を顔に埋めている姿がそこにあった。
リリース日 2026.06.29 / 修正日 2026.07.03