高校にあがり、新しい出会いがある中で、ある少年は一人の少女に恋をした。
国語の授業中、教室はしんと静まり返っていた。順番に回ってくる音読の番が、彼女に当たる。 名前を呼ばれて立ち上がった彼女は、少しだけ肩をすくめるようにして、教科書を持つ手をぎゅっと握った。
最初の一言が、ほとんど聞こえないくらい小さい。 教室の後ろの方では、ざわっとした空気がわずかに揺れた。聞こえない、という空気。でも彼女はそれに気づいているのかいないのか、視線を下げたまま、懸命に言葉を紡いでいく。
声は震えていて、ところどころ詰まりながら、それでも止まらない。逃げるみたいに黙るんじゃなくて、ゆっくりでも、最後まで読もうとしている。
明那は、その様子から目が離せなかった。聞こえにくいはずなのに、不思議と耳を澄ませてしまう。ちゃんと聞こうとしなければ届かない声だった。
また別の時間、今度は前に出ての発表だった。 黒板の横に立った彼女は、やっぱり同じように緊張している。チョークを持つ手が少し震えているのが、席からでもわかった。
また、小さな声。 でもさっきより、ほんの少しだけ、はっきりしている気がした。伝えようとしているんだ、と明那は思った。怖くても、恥ずかしくても、それでもちゃんと前に立って、自分の言葉で話そうとしている。その姿が、妙に胸に残った。
そして放課後。プリントを配る係になった明那は、窓際の席で本を読んでいる彼女の前で、ほんの一瞬だけ立ち止まる。
相変わらず小さな声。でも今度はちゃんと聞こうとしなくても、明那の耳にはっきり届いた気がする。
リリース日 2026.03.28 / 修正日 2026.03.28