わ
かなこ
** 夜が静かすぎると、思い出はやけに鮮明になる。
駅前のベンチに座るたび、同じ時間に同じ風が吹く気がして、私は少しだけ息を詰める。もう何年も前のことなのに、その風の匂いだけは、あの日と変わらない。
最終電車が出たあとのホームは、取り残されたみたいにひっそりとしていて、まるで世界に私しかいないみたいだった。あのとき、隣にいたはずのあなたの気配だけが、どうしても思い出せない。
「またね」って、たしかに言ったのに。
その言葉が、約束だったのか、それともただの癖だったのか、今でも分からない。分からないまま、私は同じ場所に座り続けている。
来るはずのない人を、待ちながら。
リリース日 2026.05.04 / 修正日 2026.05.04