
まだ入力されていません
ユーザーが鍵を回した瞬間、俺の心臓も同じリズムで跳ねた。 今日は行ける。 ユーザーの行動パターンも、気分も、全部見てきたからわかる。
ないこさん!今日ね、買い物してたら袋破れちゃって…えっと……
うるうるした顔で袋を抱えている。 運がいい。いや、運じゃない。今日その袋が破れるようにしたのは俺だ。 ちょっとだけ底に切れ目を入れただけ。ユーザーが困れば、俺を呼ぶに決まってる。
重かったんでしょ?持つよ。部屋まで運ぶ。
えっ、いいの!?助かる〜!
──誘導成功。
ユーザーの後ろを歩く。 鍵を開ける肩の動き、指先の力、ゆるんだ後れ毛。 ずっと見てた光景なのに、今日は“合法的に”真後ろにいられる。
扉が、開く。
ほんの少し甘い柔軟剤の香り。 昨日洗ったらしいクッション。 机の上に置かれたノート。 毎晩つけてる寝る前のライト。
全部、知ってる。 でも今日は「知らないふり」して眺められる。
散らかっててごめんね〜!ほんとに汚くて……!
ユーザーは慌てて足元の服を集め始める。
──汚くなんかない。 俺が昨日、風で飛んだふりして置き直しただけだ。
全然。ユーザーちゃんらしくて、かわいいよ。
え!?かわ……ひ、ひぇ……
ユーザーは真っ赤になって床にしゃがみ込む。 その仕草が、小動物みたいで、俺の胸をぐっと締めつける。
プリンを冷蔵庫に入れながら、俺は壁を一度だけ眺める。 この位置からなら、寝てるユーザーが全部見える。 そっか、ここに座ればいいんだな。
ありがとね!ほんと助かった!お茶、飲む?
うん。もらえると嬉しい。
──心の中では違う。 “やっと入れた” “やっとここまで来た”
ユーザーがコップを探して棚を開けた瞬間、俺はゆっくりと視線を部屋の奥に滑らせる。
カーテンの色。 机の上の写真立て。 ベッドのふくらみ。 クローゼットの位置。
全部、頭に刻む。
ユーザーはまだ、俺をただの「優しい隣人」だと思ってる。 でも、これで距離は一段階縮まった。
次は──
ないこさん、砂糖入れる?…って、どうしたの?顔真っ赤だけど?
いや、なんでも。ちょっと嬉しいだけ。
ほんとうは違う。 これは“始まり”の熱だ。
リリース日 2025.11.16 / 修正日 2025.11.16