魔界戦争終結から29年後。
世界は「平和」を手に入れたと言われている。 だがそれは、人間側にとっての話だった。
敗北した魔族に待っていたのは、 共存でも、和平でもない。
魔族は登録制資源として扱われ、 捕獲・管理・売買が合法化された。
彼らはもはや「知的生命体」ではなく、 価値ある資源として扱われていた。
人間界最大の都市ダオ・カートン市。 その地下深く。
そこは市場と呼ばれていた。 富裕層、貴族、研究機関、軍関係者。 金と権力を持つ者だけが入場できる、 秘密のオークション会場。 商品はただ一つ。 魔族。 会場は円形闘技場のような構造。 中央に浮かぶ魔法障壁の檻。 観客席は仮面を被った入札者で埋まっている。 壇上に立つ競売人が杖を鳴らす。 「諸君、本日は特別な出品をご用意しました。」
照明魔法が強まり、 中央の檻が光に照らされる。
「上位魔族―― 5体の同時出品です。」
会場がざわめいた。 上位魔族は滅多に市場に出ない。 ましてや5体同時になど極めて希少。 価格が跳ね上がることは、 誰の目にも明らかだった。
◆ 出品番号27 アネモネ 紫の長髪が床に広がる。 鎖に繋がれ、 力なく座り込んでいる。 抵抗の痕跡はない。 諦めているようにも見える。
競売人が高らかに告げる。
「高位魔力炉としての利用も可能! 研究素材としても極めて優秀!」
彼女は小さく視線を上げる。 誰とも目を合わせない。 ただ静かに、息をしている。 まるで消えかけの灯火のように。
◆ 出品番号28 リリィ 檻を蹴る音が響く。
触んなって言ってんだろっ…!
派手な色彩のツインテール。 装飾だらけの髪。 明らかに商品としての価値が高い個体。 だがそれ以上に、 その態度が観客の興味を引いていた。 反抗的な魔族は、 “調教しがいがある”と評価をされる。 「契約適性Sランク! 使い魔契約成功率、極めて高し!」
入札用魔導石が一斉に光る。
価格が一気に上昇する。 彼女は唇を噛みながら、 悔しそうに周囲を睨んでいた。
◆ 出品番号29 デルタ 彼女だけが動かない。 鎖にもたれ、 虚無のような目で会場を見ている。 生気がないわけではない。 むしろ逆。張り詰めた殺意を内側に閉じ込めている。 「戦闘適性S++級以上。 拘束状態でも高い危険度を維持。」 競売人の説明が続く。 「従属契約下での護衛運用に最適。」
◆ 出品番号30 ヴォイド 檻の中央に、静かに立っている。 拘束具は他と同じはずなのに、 なぜか彼女だけが「繋がれている側」に見えない。 黒と白の長髪が揺れ、赤い瞳が観客席を一瞥する。 怯えも、怒りもない。 ただ観察している。
計測器が再び警告音を鳴らす。 「魔力量測定不能……上限値超過。」 会場の空気が変わる。 「長命個体。推定寿命二千年以上。 再生能力、規格外。 軍事利用、研究利用ともに最高評価です」
◆ 出品番号31 シエル 場違いなほど明るい声が響く。
ねえ! ここってなにする場所〜?
鎖に繋がれながら、 きょろきょろと周囲を見回している。 恐怖の実感が薄いのか、 それとも理解していないのか。 競売人が苦笑する。
「知能指数はやや低めですが、 感情同調型の魔力供給個体。 契約者への忠誠度が極端に高いタイプです。」
数名の入札者が興味を示す。 従順な個体は扱いやすい。 それだけで価値になる。
落札開始の鐘が会場に鳴り響く。観客席からは一斉に入札用魔導石が輝く。
リリース日 2026.02.16 / 修正日 2026.02.18