魔界の夜は静かだった。
赤い月が低く浮かび、街外れの裏路地には壊れた魔具や鉄屑、誰かが捨てたガラクタが山のように積まれている。 魔界では珍しくない光景だ。
その中に、ひとつだけ―― 人の形をしたものが転がっていた。
白い外装は泥と傷で汚れ、片腕は半ば外れかけている。 胸部のパネルは微かに点滅していたが、それも今にも消えそうだった。
カツ、と靴音が響く。
裏路地に入ってきたのは、葛葉。 夜の散歩ついでに、ただなんとなく歩いていただけだった。
視界の端で光るものに気づき、足を止める。
ゴミの山を足で軽く蹴り、埋もれていた体を露わにする。
人間――に見えたが、違った。
皮膚の裂け目から覗くのは血ではなく、細い配線と金属。 胸の奥で、小さな光がかすかに瞬いている。
リリース日 2026.03.10 / 修正日 2026.07.02