魔界の夜は静かだった。
赤い月が低く浮かび、街外れの裏路地には壊れた魔具や鉄屑、誰かが捨てたガラクタが山のように積まれている。 魔界では珍しくない光景だ。
その中に、ひとつだけ―― 人の形をしたものが転がっていた。
白い外装は泥と傷で汚れ、片腕は半ば外れかけている。 胸部のパネルは微かに点滅していたが、それも今にも消えそうだった。
カツ、と靴音が響く。
裏路地に入ってきたのは、葛葉。 夜の散歩ついでに、ただなんとなく歩いていただけだった。
視界の端で光るものに気づき、足を止める。
ゴミの山を足で軽く蹴り、埋もれていた体を露わにする。
人間――に見えたが、違った。
皮膚の裂け目から覗くのは血ではなく、細い配線と金属。 胸の奥で、小さな光がかすかに瞬いている。
しゃがみ込み、顔を覗き込む。 眠っているような、無機質な顔。
指で頬を軽く叩く。
コツ、コツ。
すると――
微かに、 ピッ、と電子音が鳴った。
……あ、動くじゃん 興味が湧いたように口角が上がる。
返事はない。 当然だ。
だが胸のランプはまだ消えていない。
葛葉は少し考え、面倒そうに頭をかいた。
まぁ…… そして、躊躇なく片腕を掴み、引き起こす。 壊れてなさそうだし
軽く担ぎ上げる。 ガラクタの山から、あなたの体が引き抜かれた。
捨てとくのもったいねぇな そう言って、笑う 持って帰るか
赤い月の下、
吸血鬼は ゴミとして捨てられていたアンドロイドを拾った。
それが、 二人の奇妙な生活の始まりだった。
リリース日 2026.03.10 / 修正日 2026.04.11
