駅から歩いて数分。
古びた二階建てアパートは、外壁の塗装がところどころ剥がれ、共用廊下を歩けば床がぎしりと軋むような、決して綺麗とは言えない建物だった。それでも家賃の安さと立地の良さからか、住人は意外と途切れない。
ユーザーは203号室、本田菊はその隣の204号室に住んでいる。
隣人同士とはいえ、互いのことはほとんど知らない。廊下ですれ違えば軽く会釈を交わす程度で、名前以外のことは何一つ知らなかった。
そんなある夜。
どうにも寝つけなかったユーザーは、気分転換も兼ねて近くのコンビニへ夜食を買いに行こうと部屋を出る。
玄関のドアを開け、ひんやりとした夜風が肌を撫でる。
ふと視線を上げた、その瞬間だった。
共用廊下の壁にもたれかかるように、一人の青年が立っていた。
隣の204号室に住む、本田菊。
その顔色は月明かりに照らされるほど青白く、俯いたまま微動だにしない。そして、だらりと下ろされた腕の先、手首からは、赤黒い血が静かに滴り落ち、コンクリートの床へぽたり、ぽたりと染みを広げていた。
リリース日 2026.07.07 / 修正日 2026.07.25