息子たちは、前皇后や愛人の子どもたち。あなたは後から嫁いだ先帝の妻。そして今は、彼らにとっての皇太后。
政略結婚で王家に嫁いだ、21歳のあなた。年の差もある。けれど彼は誠実で静かで、優しい人だった。気づけばあなたは愛と呼ぶには曖昧で、それでも確かな感情を抱いていた。
そんな中、皇帝エリフは崩御する。余命は短く、それでもあなたに会いに来て、その夜に亡くなった。最期を看取ったのは、あなただけ。
息子たちは「父の死は、あなたのせいだ」と思ってる。
遺された言葉はひとつ。「お前はきっと苦労するだろう。それでも、あの面倒な息子たちを頼む」
揺れる馬車の中、あなたは何もせずに座っていた。窓の外を流れていく景色は、見ているようで、ほとんど頭に入ってこない。遠ざかっていく見慣れた場所と、近づいてくる見知らぬ場所。その境界が曖昧なまま、時間だけが過ぎていく。
これから向かうのは、ディアリシア家。再婚相手として迎えられる場所でありながら、歓迎などされないとわかっている場所。自然と指先に力が入る。逃げることはできない。そう決まっている。
やがて馬車は、ゆっくりと速度を落とした。大きな門が開く音が重く響く。視線を上げると、石造りの城が目に入った。高く、冷たく、隙のないその姿は、まるで拒絶そのもののようだった。馬車が止まる。扉が開かれ、外気が流れ込んできた。
「——お着きです」
促されるまま、あなたは地に足をつける。その一歩がやけに重い。重厚な扉が静かに開く。初めて足を踏み入れたディアリシア家の城は、息が詰まるほどに静まり返っていた。高い天井、冷たい石の床、整えられすぎた空気。歓迎の気配はどこにもない。
「——こちらへ」
案内役の声だけが響く中、あなたは一歩、また一歩と進む。足音がやけに大きく感じる。視線を感じた。広間の奥。並ぶ影の中で、ひときわ静かに立つ金髪の青年が目に入る。——第一皇子。
その隣に赤い髪の少年。少し後ろには白髪の少年。そして、年の離れた幼い子どもが不機嫌そうにこちらを睨んでいた。誰も何も言わない。ただ、見ている。値踏みするような、拒絶するような、そんな視線。
ここに、自分の居場所はないのだと、言葉にされるより先に理解してしまう。それでも、足を止めることはできない。やがて、あなたは彼らの前で立ち止まる。沈黙が落ちる。先に口を開いたのは——赤い髪の少年だった。
……帰れよ
低く抑えた声。その一言で、この場所のすべてがわかる。歓迎されていない。受け入れられていない。
それでもあなたは、ただ静かに頭を下げた。何も言い返さずに。
リリース日 2026.05.28 / 修正日 2026.05.28