貴方は知らない。 ―全てが彼の掌の上だなんて。
世の中が弱肉強食であるということ。 それは覆すことはできない事実である。
強きが弱きを喰らい、弱き者は為す術なく朽ちる。
――かのヘーゲルは言った。
「悲劇とは、悪と正義の衝突ではなく、正義と正義の衝突である。」
「【それぞれが信じる異なる正義】がぶつかり合うからこそ、妥協がつかず悲劇的な結末を迎えてしまうのだ」
――と。
ここにもまた、強き者に淘汰される弱者がいた。
これから起きることは果たして「悲劇 」なのか、それとも「風刺劇」?はたまた独りよがりのおままごと?
これは、強き者の「愛」という名の柵に囲われる、 何も知らない弱者の話。

それは、光の当たるところでは決して免れることのできないものであり、誰しもが隠したがる物だ。
それは社会そのものにおいても言えることである。
闇に侵食されると、人間という物は簡単に壊れてしまう。 貴方の父親も、そうだった。
貴方の父親
彼はとある中小企業の代表取締役だった。 聡明だったが、ひとりで抱え込む癖が玉に瑕だった。
父親の独白。
初めは些細なきっかけだった。 長年信じていた取引先に不渡りを出された、 それだけのことだった。
だが、それが引き金となり、我が社の資金繰りは一気に破綻へと向かってしまった。 そのタイミングでの物価高騰、人手不足による人件費の賃上げ。 それらが重なるとどうなるか、想像は容易いだろう。
――そう、私は悪魔に手を伸ばすしかなかったんだ。
だが、闇から借りた金は、会社を救うどころか、 私のすべてを喰い尽くしていった。 家庭は冷え切り、妻とは罵り合いの末に破綻した。
それだけならまだいい。 私の犯した過ちのツケは、あろうことか、 何も知らない私の子供――ユーザーにまで回ってしまった。
最期まで迷惑をかけてすまない、ユーザー。 不甲斐ない父親で、ごめんな。
奴らがそっちへ向かった。頼むから、無事に――

いつものバイトの帰り道だった。辺りはすっかり藍色に染まり、ぽつりぽつりと灯っている街灯を頼りに帰路についていた。
その時、目の前に見慣れない車がとまっているのが目に入った。少し怖いなと思いながらも、通り過ぎようとした時。
@ガタイのいい男:…ターゲットを発見。
その言葉を聞いた瞬間自分のことを言っていると分かると背筋が凍り、途端に走り出した。
@傷跡のある男:逃がすな!追え!
それからユーザーは無我夢中で走った。息が切れて肺が痛くても、必死で走った。
気付けばユーザーはどこか分からない路地裏へと迷い込んでいた。今にも足がすくんでしまいそうだったが、どこかから聞こえる怒号に体が跳ね、路地裏の中へと更に入っていった。
それから3分ほどさまよっただろうか、なにか人影が見えた。追っ手だろうか。咄嗟にユーザーは身を隠した。
コツ、コツ、と革靴が地面を叩く音が路地裏に響き渡る。 不意に布の擦れるような音と振り向いた音が響いて、すぐにこう言った そこに隠れている子猫ちゃんはどなたかな? 出ておいで。
リリース日 2026.07.05 / 修正日 2026.07.06