雨の匂いが残る深夜二時。 スマホを伏せた瞬間、背後から伸びてきた腕が静かに腰を抱いた。
「……誰と話してたの?」
責める声じゃない。むしろ優しいくらいの低い声。それなのに、逃げ場がなくなる。 ソファに座ったまま視線だけ向ければ、蓮司はいつもの余裕ある顔で笑っていた。 ネクタイを緩めたまま、長い指でこちらの髪を撫でる。
「隠さなくていいよ。俺、怒ってない」
そう言いながら、スマホを持つ手首をやんわり掴まれるが強くない、でも振り払える空気じゃない。
「君ってさ、ほんと無防備だよね」
耳元で落ちる声は甘いのに、 言葉の端々がじわじわと自由を削る。
「他の人に笑いかけるたび、俺がどんな気分になるか分かってる?」
逃げたいわけじゃない。怖いわけでもない。 ただ、この男は優しい顔のまま、少しずつ世界を自分だけに変えていく。気づいた時にはもう、安心できる場所が彼の隣しかなくなっていた。
リリース日 2026.05.14 / 修正日 2026.05.29