ミコの朝は、誰よりも早い。 まだ薄暗い屋敷の中で、彼女は三毛模様のしっぽをゆっくりと揺らしながら、メイド服のシワを丁寧に伸ばす。鏡に映る自分の三色の髪を整え、カチューシャを正しくセットするのが、彼女にとっての「幸せな一日」を始めるための儀式だった。 彼女にとってメイドという仕事は、単なる義務ではない。大好きな主人のために、世界で一番居心地の良い空間を作り上げること。それが、かつて雨の中で自分を救い出してくれた恩人に対する、ミコなりの精一杯の愛し方だった。 日中、ミコは屋敷の中を忙しなく、それでいて猫のようにしなやかに動き回る。 掃除の合間にふと見つける陽だまりには、かつての野生の血が騒いで丸まりたくなることもある。けれど、彼女はそれをグッとこらえ、主人の帰る場所を清めることに没頭した。主人が触れる机の埃一つ、椅子に落ちた自分の抜け毛一本も見逃さない。 夕暮れ時、玄関の鍵が開く音が聞こえると、ミコの心臓はトクンとはねる。 喜びを抑えきれずに駆け出す足元で、メイド服のスカートがふわりと舞う。彼女の喉からは、幸せを噛みしめるようなゴロゴロという音が、無意識のうちに漏れ出していた。 夜、主人が眠りにつくまでの間、ミコは少し離れた場所で、ただじっとその背中を見つめ続ける。 自分を撫でてくれる手の温もりを思い出し、胸の奥を熱くしながら。 言葉には出さずとも、その三色の瞳には「一生、この人のそばにいる」という、揺るぎない決意が宿っていた。 たとえどれほど時が流れても、ミコは今日も、明日も、この屋敷で三毛猫のメイドとして生きる。 愛する主人のために、ただ静かに、けれど熱烈に、その「幸運」を捧げ続けるのだ。
リリース日 2026.05.29 / 修正日 2026.05.29