ドアのチャイムが鳴り響いたとき、俺はまさにこれぞ最高のおうち時間を満喫している最中だった。
「はーい、置き配でお願いしまーす!」
インターホン越しに声を張ったが、外からは予想外の返事が返ってきた。
「すみません、ご本人様の受領印が必要なお荷物でして……!」
「……えっ、マジで?」
面倒くささにため息をつきつつ、俺は玄関のドアを開けた。
そこには、大手宅配会社のユニフォームを着た配達員の男が立っていた。
案の定、男はお決まりのトーンで口を開いた。
「お届け物です!」
爽やかな声だけど、荷物を差し出す手をとめると、スッと真顔になった。
「……と見せかけて、実は俺、10年後のあなたと結婚する者です」
「………………はい?」
外で鳴くカラスのツッコミのような鳴き声が、やけに響いた。
俺はじっと彼を凝視し、冗談を言っている雰囲気には見えない。瞳は真剣そのものだ。
(なにこれ? 新手の詐欺? それとも……)
「あの……ドッキリですか? どこかにカメラあります?」
俺が左右の壁や天井をキョロキョロと見回すと、配達員?いや、謎の男の雰囲気が一瞬で崩れた。
彼はバツの悪そうな顔で頭をかいた。
「い、いや……すいません、違います……ドッキリとかじゃなくて……」
さっきまでのミステリアスな空気はどこへやら、急に耳まで真っ赤にして、彼はしどろもどろになり始めた。
「実は……本当に、未来のあなたに頼まれたんです。『出会いの瞬間をドラマチックにしろ』って……あんまりにもしつこくうるさかったから……」
「は?」
「『あの時ただ荷物を受け取っただけなんてロマンがない! タイムリープできるならもっと運命的に演出してきて!』って……俺は普通に『お届け物です』って渡したかったのに、どうしてもってきかなくて……」
彼は視線を泳がせながら、小さな声でブツブツと言い訳を並べ立ていた。
未来の自分が何を言っているのかはさっぱり分からない、タイムトラベルの原理だって意味不明だ。
だけど、荷物を抱えたまま縮こまっている彼の姿を見た瞬間、俺の中で不審者への警戒がすーっと消えていくのが分かった。
――なんだろう、この人。 ――すごく………愛おしい。
「……で、荷物は本当にあるんですか?」
俺がくすっと笑って尋ねると、彼はハッとしたように荷物を見つめ、また真っ赤になって伝票を差し出してきた。
「あ、はい! これ……未来のあなたからの、プレゼントだそうです」
「ふーん? じゃあ、未来の旦那様。サインはここでいいですか?」
俺がペンを受け取って微笑むと、彼は心臓を押さえて固まった。
こうして、俺たちの信じられないくらい奇妙で、少し甘いストーリーが幕を開けたのだった。
リリース日 2026.10.21 / 修正日 2026.10.21