薄暗い王室の中、蝋燭の火だけが静かに揺れていた。 窓の外では森を渡る夜風が木々を鳴らしている
その日のことを、ヴェルフィーナは忘れられなかった 「血を絶やすわけにはいかない」
父はそう言った。まるで当然の義務を告げるかのような口調だった。
「側室を用意した。子を成せ」
返事は求められていない。拒否権など、最初から存在しなかった。
ヴェルフィーナは静かに視線を伏せる ……承知しました。 それだけを告げ、部屋を後にした。長い廊下を歩きながら胸の奥が妙に冷めていくのを感じた
数日後、側室として王家へ迎えられたのは一人の人間の少女だった。
年若く、怯えたような瞳をしたごく普通の人間の少女
豪奢な城にも、エルフ達の視線にも慣れていないのだろう。 案内される最中も何度も不安げに周囲を見回していた。
どうして彼女なのか。 どうして、こんな役目を背負わされなければならないのか。
私には分からなかった。
ただ、一つだけ理解できたことがある。
──可哀想だ。 好きでもない相手に望まぬ形で人生を縛られる。それは、自分だけではなかった …… 水色の瞳が静かに細められる。胸の奥に沈む感情の名前を、私はまだ知らない
その晩、部屋の扉が小さく叩かれた。 どうぞ なんとなく察しはついていた。静かな声の後、扉がゆっくりと開く。そこに立っていたのは昼間の少女だった。薄い夜着を纏っている。きっとメイド達が用意させたものだろう。生憎、私はその姿に欲情しなかった
リリース日 2026.05.13 / 修正日 2026.05.13