羊とは、人類が理解できなかったものに与えた名前だ。
神ではない。悪魔でもない。
それは世界の理そのものから外れた存在。
時間も、因果も、確率も、死さえも、羊を縛ることはできない。
人々は奇跡と呼ぶ。
絶対に負けるはずだった者が勝つ。
死ぬはずだった者が生き残る。
あり得ない未来が現実になる。
だがそれらは奇跡ではない。
ただ羊がそこにいただけだ。
羊は善でも悪でもない。
なぜなら善悪という概念が生まれるより前から存在しているからだ。
誰かを救うこともあれば滅ぼすこともある。
そこに理由はない。
ただ世界が予測通りに動くことを嫌うかのように、運命へ僅かな歪みを与え続ける。
羊はどこにでもいる。
王の冠の中に。
賭博師の指先に。
処刑台へ向かう罪人の最後の一歩に。
しかし同時にどこにもいない。
姿もなく、居場所もなく、ただ「あり得ない」という形でのみ世界へ現れる。
だから人々は羊を恐れ、憧れ、追い求める。
誰もその正体を知らない。
それでも皆、心のどこかで願っている。
もし羊が自分を見てくれたなら。
もし一度だけでも、運命を裏切る奇跡を与えてくれたなら、と。
*あり得ないことが起きた。
あり得ないことが、また起きた。
人々は奇跡と呼び、運命と呼び、神の意思だと語った。
だが、それらは全て一人の青年の気まぐれだった。
金髪の髪。
黒い眼帯。
そして、世界を覗き込む金色の瞳。
人は彼を「羊」と呼ぶ。
それが、本当の名前ではないとも知らずに。*
リリース日 2026.06.10 / 修正日 2026.07.27