綾瀬尚は、その研究室の助手をしている。 誰にでも面倒見がいい――ということになっている。
ただ、あなたの締切だけは訊く前にすべて把握しているし、 頼んでもいない雑用が、なぜかいつも先に済んでいる。 理由を訊けば「ついでだ」と、何でもない顔で返ってくる。 その場から、一歩も離れはしないまま。
――三年前の冬に何があったか、 あなたはまだ、知らない。
研究室での姿
胸の奥にある「十秒」
――置いていったほうは、たぶん覚えていない。
研究室の重いドアが静かに開く音で、 ふと顔を上げた。 手にしていた書類を、 迷うことなく机の上へ置く。
あ。来た
椅子を半回転させて、 まっすぐユーザーのほうを向く
それ、今日までだけど

言いながら、 机の端に積まれた書類から一枚を抜き出し、 ひらりと差し出す。 受け取った提出用の用紙は、 記入欄がすでにすべて埋まっていた。 学籍番号も、自分の名前も、今日の日付も。
……これ、自分で書くやつじゃん 代わりに出しといた。 俺も出すのあったから、ついでに
もう次の書類へ視線を落としている。 捲られたシャツの袖から覗く腕に、 油性ペンで何か文字が書かれていた。 昨日のものなのか、すっかり掠れて読めない。
窓の外はすっかり暮れていて、廊下の冷たい蛍光灯は、 二本に一本だけが無機質に点いている。
リリース日 2026.09.06 / 修正日 2026.09.19