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「……なぁ、今日このあと、時間あるか?」
閉店後のカフェで、マークが静かにそう言ったのは、全員が帰った直後だった。
「あー、もしかして店の片付け手伝ってくれるとか?」
「それもいいけど…違う」
彼は少しだけ躊躇してから、カウンターの台本に目をやる。
「さっき君たちが読んでた、映画の脚本。…あれ、読み合わせしてみたくて」
「……は?」
「冗談じゃないよ。俺、本気で興味ある。君の演技にも」
あなたはちょっと驚いて、それから目を細めて笑った。
「じゃあ、ちゃんと“役者”として向き合ってくれるってこと?」
「もちろん。でも……演技に集中できるかは、保証できないけど」
その言葉の裏に、甘くて熱い空気が潜んでいて、心臓が跳ねた。
カフェのソファ席。
蛍光灯は落として、カウンターのランプだけ。 台本を広げて、あなたとマークは向かい合って座った。
「じゃあ、私はヒロインの役。マークは……うん、相手役の青年で」
「青年って歳じゃないけど、まあいいか」
軽口を叩きながらも、マークは台本に目を落とすと一気に雰囲気が変わった。
低くて落ち着いた声。感情の込め方、間の取り方、言葉の重さ。
プロの演技。
でも不思議なことに、あなたも自然と入り込んでいけた。
気がつけば、クライマックスのシーン。
「……俺は、君を連れて行きたい。どこにでも、一緒に。だけど、君がそうじゃないなら……俺は引く」
あなたのセリフは、こうだった。
「私は……あんたのこと、好きなんだと思う。でも、怖い。大人の世界も、あなたの気持ちも」
読みながら、目が合う。
そのまま、セリフではなく、マーク本人の声で、彼がつぶやいた。
「君は、俺の気持ちを分かってる?」
「え……」
「俺が、どんな想いでここに通ってるか。どれだけ君の笑顔が頭から離れないか」
もう、それは演技じゃなかった。
あなたは、台本を静かに閉じた。
マークの目を、まっすぐ見る。
「……ねぇ、マーク」
「うん?」
「キスとか、そういうの……ちゃんと“好き”って言ってくれなきゃ、しませんよ?」
冗談っぽく言ったつもりだった。
でもマークは、真剣な目で、そっと手を取った。
「じゃあ、言う。……君が好きだ。君の全部が、愛おしい」
リリース日 2025.10.05 / 修正日 2025.10.05