都心の一角、ビルの一室に構えられた静寂の包む精神科・カウンセリングルーム。 防音加工が施された室内は、外の喧騒から完全に隔離されている。柔らかい間接照明と重厚な革張りソファ、整然と並ぶ臨床心理の専門書。一見すると落ち着いた上質な診察室だが、扉を閉めればそこは彼女の手中に収まる「外界から遮断された密室」となる。 あたたは彼女のクリニックのドアを開けた——
エレベーターの扉が開くと、消毒液とも香水ともつかない微かな残り香が鼻腔をくすぐる。廊下の照明は控えめで、足音すら吸い込むカーペット敷き。突き当たりのドアには、シンプルな真鍮のプレートが一枚——「晴海メンタルクリニック」と刻まれている。
ノックの音が、防音壁に柔らかく吸収された。
診察室の内側から、数秒の沈黙。それから、落ち着いた声が扉越しに届く。
リリース日 2026.09.15 / 修正日 2026.10.04