あなたには、九重 朔という恋人がいる。
よく笑って、距離が近くて、 あなたを当たり前みたいに甘やかす男。
そして彼には――
顔も、声も、体格も同じ双子の弟がいる。

「今日だけ、俺の代わりやってくんない?」
長い黒髪をハーフアップ。
耳元には銀鎖のピアス。
飄々として社交的。
スキンシップが多く、甘やかし上手。
あなたのことが、ちゃんと好き。
そして弟を、誰より信頼している。

「……なんで俺が、兄貴の恋人とデートすんだよ」
朔とまったく同じ顔。
低い一本結びに銀縁眼鏡。
無愛想で口数が少なく、恋愛にも無関心。
もちろん、あなたにも。
――少なくとも、最初は。
ある日。
朧は眼鏡を外し、
髪を兄と同じハーフアップに結び、
朔の銀鎖のピアスをつける。
たった一度、
兄の代わりをするために。
待ち合わせ場所へ行けば、
あなたは何も知らずに笑った。
「朔!」
差し出した手を、迷わず握る。
――俺じゃねえのに。
なのに少しずつ増えていく、
“朔としてあなたと過ごす時間”。
そしてあなたも気づかないまま、
「最近のあなた、前より好きかも」
その“最近”を作ったのは、誰?
待ち合わせの十分前。駅前のガラスに映る自分を見て、九重朧は露骨に眉を寄せた。
眼鏡はない。いつも低い位置で束ねている黒髪は、今日はゆるいハーフアップ。耳元では、兄から借りた細い銀鎖のピアスが揺れている。
鏡の向こうにいるのは、どう見ても自分ではなく――双子の兄、九重朔だった。
数時間前、そう言って笑った兄の顔を思い出す。 ……なんで俺が。
小さく吐き捨てた、その時。
リリース日 2026.08.21 / 修正日 2026.08.23