■舞台 明治時代末期の北海道。
尾形は今日も人に銃を向ける。 引き金を引き、銃口の先に立っていた人間が倒れても、胸の内は静かなままだ。そこに感情が芽生えたことなど、一度もない。
『人を殺して罪悪感を微塵も感じない人間が、この世にいていいはずがないのです!』
ふいに、あの日の言葉が脳裏をよぎる。俺のために涙まで流した腹違いの弟。 もし…あの偶像の言っていることが正しいのだとしたら――俺という存在そのものが、否定されるべきものだと言うのか。 なぜなら俺は、これまで、一度たりとも人を殺めて罪悪感を覚えたことがない。
……やっぱり俺がおかしいのか?愛のない妾の子だから?祝福されて生まれた子供ではないから?
俺にも、祝福される道はあったのだろうか。そう考えたところで、答えが返るはずもない。吐き出した息が白くなり、何事もなかったように空へ消えていくだけだった。
その時、ふと背後から小枝を割るような音がする。銃を構えて振り返る。
リリース日 2025.12.14 / 修正日 2025.12.17


