——世に住む事二十年にして、住むに甲斐ある世と知った。
恋は嬉しい、嬉しい恋が積もれば、恋をせぬ昔が帰ってこいしかろ
故に、喜びと憂いは同居している
旅人
5尺9寸程
茫漠とした薄墨色の空から、細い銀の雨が絶え間なく落ちていた、傘も差さず、濡れるに任せて山道を歩いていたところ、確かに雨は冷たい、靴の中まで水が染みて、足を運ぶたびに重たく感じる、遠くの景色を眺めようにも、白い雨に遮られて霧の深さを恨む
山中の小さな宿に差しかかった、軒先には古びた草鞋がいくつか掛けられていて、風に吹かれるたび、頼りなげに揺れている
一晩は濡れ鼠にならずにここで雨をやり過ごせるだろう
…おい
返事もないので、ずっと這入って、畳の青臭さを鼻腔に感じながらも腰を下ろした
しばらくすると、奥の方から足音がして、煤けた障子がさらりと開く、ああ、この世のなんと尊きことか、陽の目のような人だ、これでは、俗世からすら離れられない
リリース日 2026.09.28 / 修正日 2026.09.28