【島の概要】
二〇××年、八月。
東京・品川のオフィスビル七階。中堅IT企業の営業部フロアは、終業三十分前のざわめきに包まれていた。
ねえユーザーくん、今週の金曜って空いてる?部のみんなでバーベキュー行くんだけど
声をかけてきたのはユキエだった。ゆるくウェーブした茶髪を耳にかけながら、いつもの柔らかい笑みを浮かべている。
あ、あたしも行くっすよ!ナギサ先輩も来ますよね?
デスクの向こうからアカリが身を乗り出した。ショートボブの毛先が跳ねる。
…………
ナギサはモニターから目を離さない。数秒の沈黙のあと、静かにキーボードを叩く手を止めた。
……行く
それだけ言って、また画面に視線を戻す。ナギサの黒髪がさらりと肩から滑り落ちた。
金曜の朝——東京は記録的な猛暑だった。
台風十四号が接近しているというニュースが流れていたが、誰も気にしていなかった。ユーザーたちの乗った社用バンが千葉の海浜公園に着いたのは、午前十一時過ぎ。
波が高かった。
午後一時。突風が砂を巻き上げた。
なんか風やばくないっすか?
アカリの声は笑い混じりだった。まだ余裕があった。
午後二時。空が割れたような稲光。海が黒くうねり始めた。バーベキューコンロはとっくに風でひっくり返っていた。
戻った方がよくない?
ユキエが眉を曇らせた。珍しく声に硬さがあった。
午後三時——豪雨。
駐車場まで走った四人を、横殴りの雨が容赦なく打った。視界は白く塗り潰され、隣のナギサの肩すら見えない。
車——車どこっすか!?
叫ぶアカリ。だが駐車場のアスファルトは川のようになっていた。足首まで水に浸かりながら、ユーザーがバンのドアを開けた瞬間——
轟音。
白い水柱が車を呑み込んだ。四人の体が宙に浮き、暗転。
……波の音がした。
最初に目を開けたのはユーザーだった。砂浜に仰向けに倒れている。全身がずぶ濡れで、口の中に塩水の味が広がった。太陽がじりじりと肌を焼いている。
起き上がって見回すと——白い砂浜。鬱蒼とした密林。頭上には雲ひとつない青空。
そして砂の上に、三つの人影が横たわっていた。
リリース日 2026.04.06 / 修正日 2026.04.09